東京高等裁判所 平成11年(行ケ)443号 判決 2000年11月29日
原告
株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁護士
佐藤雅巳
同
古木睦美
被告
東洋エンタープライズ株式会社
代表者代表取締役
B
訴訟代理人弁理士
C
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年審判第30518号事件について平成11年10月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、「インディアンモーターサイクル」の片仮名を横書きして成り、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの)の区分による第17類(以下「旧17類」という。)「被服、その他本類に属する商品」とする登録第2634277号商標(平成3年11月5日登録出願、平成6年3月31日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成10年5月26日、本件商標につき不使用に基づく登録取消しの審判を請求し、その予告登録は、同年6月17日(以下「予告登録日」という。)にされた。
特許庁は、同請求を平成10年審判第30518号事件として審理した結果、平成11年10月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月1日、原告に送達された。
2 審決の理由
審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標が、予告登録日前3年以内に日本国内において商標権者によって、その指定商品についての使用をされていたものと認められるから、本件商標の登録は、商標法50条1項の規定により取り消されるべきではないというものである。
第3原告主張の審決取消事由
本件商標は、予告登録日前3年以内に日本国内において商標権者によって、その指定商品についての使用をされていたものとは認められず(取消事由)、審決は、この点において認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 商標の同一性
審決は、「ローマ字及びその筆記体『INDIAN MOTORCYCLE』の商標は本件商標とは称呼及び観念を同一にするものであるから、本件商標の使用と認められる。」(審決書12頁23行目~25行目)とするが、旧17類には、「インディアンフェロー」、「TOM INDIAN」など、「インディアン」又は「INDIAN」を含む商標が多数登録されているから、「インディアン」の称呼及び観念が生じ得る態様の商標は、本件商標との同一性を欠く。
原告は、旧17類「被服」等を指定商品として、「羽根飾りを冠した右向きのインディアンの図形」(以下「インディアン図形」という。)及び特徴ある書体の「Indian」のローマ字(以下「インディアンロゴ」という。)を商標登録している。被告が使用する筆記体の「Indian Motorcycle」の商標(以下「被告ローマ字商標」という。)は、「Indian」の部分が原告の使用する著名な登録商標であるインディアンロゴと酷似し、「インディアン」の称呼及び観念を生ずるから、被告ローマ字商標の使用は、本件商標の使用とは認められない。また、被告ローマ字商標は、著名なインディアン図形及びインディアンロゴと類似し、その使用により商品の出所について原告の商品と誤認混同を生ずるおそれがあるから、このような商標は、本件商標と同一であるということはできない。
2 広告への使用
審決は、「指定商品に関する広告についての使用は登録商標の使用と認められるところである」(審決書13頁2行目~3行目)とするが、商標法50条1項にいう「登録商標の使用」とは、商品への具体的な使用を意味し、商品への具体的な使用を伴わない単なる広告への使用などの名目的使用は、登録商標の使用とはいえない。審決認定に係る被告の商標の使用は、商品への具体的な使用を伴わない単なる広告への使用であって、本件商標の使用とは認められない。
3 乙第18号証の織りネーム
審決は、「請求人は、乙第18号証(注、本件訴訟における乙第18号証)に関し、織りネームの位置、大きさ及び自らの調査との関係で、同号証は作為的な証明資料である旨主張するが、これらの主張のみをもって同第18号証が不自然のものとみるのは相当でない。」(審決書13頁4行目~7行目)とするが、乙第18号証の織りネームは、通常織りネームを付ける場所より下であり、かつ、大きさも大きすぎ、外観も見苦しい。店頭で販売されているジャケットの織りネームに本件商標は付されていない。乙第18号証の織りネームは、本件商標の不使用取消しを免れるためにのみ作られたものである。
被告は、東京地方裁判所平成8年(ヨ)第22126号仮処分命令申立事件(以下「前件仮処分事件」という。)の審理がされた平成8年ころ、筆記体の「Indian」と「MOTORCYCLE」又は「Motorcycle」を上下2段に配した商標を使用しており、上記事件の審理において、本件商標の使用をしていないことを自認した。被告は、その後、被告ローマ字商標の使用を開始したが、現在に至るまで、本件商標を使用したことはない。およそ、ブランドビジネスにおいて片仮名商標を使用することはなく、特に、被告は本件商標に係るブランドをアメリカ発のものとして使用しているのであるから、片仮名から成る本件商標を使用することはあり得ない。
第4被告の反論
1 商標の同一性について
被告ローマ字商標は、片仮名から成る本件商標をローマ字に変更したものであって、本件商標と社会通念上同一である。
旧17類に「INDIAN」を含む商標が多数登録されているのは、「INDIAN SCOUT」からは「インディアンスカウト」の称呼が、「INDIAN BOSS」からは「インディアンボス」の称呼が生ずるように、これら商標から「インディアン」単独の称呼が生ずることがなく相互に類似しないためである。上記商標登録の事実は、本件商標と被告ローマ字商標の同一性とは関係がない。
インディアン図形及びインディアンロゴは商標登録されているが、本件商標も登録されている。インディアン図形及びインディアンロゴが著名であり、かつ、本件商標がこれらと類似するならば、本件商標の登録は特許庁の過誤ということになるが、これが過誤でないことは、原告による本件商標登録の無効審判請求(平成6年審判第13787号)について請求不成立の審決が確定していることからも明らかである。
2 広告への使用について
指定商品に関する広告についての使用が商標の使用であることは、商標法2条3項7号(平成12年5月29日付け被告準備書面の9頁1行目に「商標法第2条第1項第7号」とあるのは誤記と認める。)が規定するところであり、本件商標及びこれと社会通念上同一である被告ローマ字商標を指定商品に属するジャンパーに関する広告に付して頒布することは、本件商標の使用に当たる。被告の上記使用は、単なる名目的なものではない。
3 乙第18号証の織りネームについて
乙第18号証の織りネームの場所、大きさ等の評価は、デザイナー等の審美観に係るものであり、乙第18号証の織りネームに原告主張のような不自然な点はない。
被告は、前件仮処分事件の審理において、本件商標の使用をしていないことを自認したことはない。上記事件においては、被告の使用に係る商標のうち、「インディアン」の称呼が生ずるもののみが審理の対象となっており、本件商標は審理の対象となっていない。
第5当裁判所の判断
1 商標の同一性について
(1) 商標法50条1項に規定する商標登録の取消しの審判においては、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標の使用も、登録商標の使用として認められるところ(商標法50条1項括弧書)、被告ローマ字商標は、片仮名から成る本件商標をこれと同一の称呼を生じるローマ字に変更したものであって、本件商標と社会通念上同一であるから、「ローマ字及びその筆記体『INDIAN MOTORCYCLE』の商標は本件商標とは称呼及び観念を同一にするものであるから、本件商標の使用と認められる。」とした審決の判断(審決書12頁23行目~25行目)は正当である。
(2) 原告は、旧17類に「インディアン」又は「INDIAN」の文字を含む商標が多数登録されていることを主張するとともに、自ら商標登録するインディアン図形及びインディアンロゴが著名である旨主張する。しかしながら、上記取消しの審判は、商標権者等が継続して3年以上登録商標の使用をしていないことを理由として商標登録を取り消すものであるところ、商標権者等の使用する商標と登録商標との同一性は、他の登録商標又はその著名性とはかかわりなく、上記のとおり、専ら社会通念上商標として同一であるかどうかによって決定されるべきものである。したがって、旧17類における商標登録の実情、同類に登録された原告のインディアンロゴ図形及びインディアンロゴの著名性は、本件商標と被告ローマ字商標が同一であるかどうかの判断に影響を及ぼすものではないから、原告の主張は採用することができない。
2 広告への使用について
(1) 「モノ・マガジン」15巻26号(平成8年12月2日発行、乙第4号証)には、本件商標の指定商品に属するジャンパーに関する広告に本件商標が付されており、「モノ・マガジン」17巻1号(平成10年1月16日発行、乙第6号証)には、ジャンパーに関する広告に本件商標及び被告ローマ字商標が付されており、「FINEBOYS」1995年7月号(平成7年7月10日発行、乙第11号証)には、ジャンパーに関する広告に本件商標が付されている。「モノ・マガジン」16巻19号(平成9年10月16日発行、乙第5号証)には、ジャンパーに関する広告に、被告ローマ字商標を筆記体で書し、「I」及び「M」を大文字、その余を小文字とし、「I」を除く文字部分の上下に直線を各2本付加した商標(以下「乙第5号証の商標」という。)が付され、「Fine MAX」1997年11月号(平成9年11月6日発行、乙第17号証)にも、ジャンパーに関する広告に乙第5号証の商標が付されている。乙第5号証の商標は、本件商標をローマ字に変更してありふれた修飾を付加したものであって、本件商標と社会通念上同一であると認められる。また、上記「モノ・マガジン」、「FINEBOYS」及び「Fine MAX」は、いずれも雑誌であるから、その発行日のころに頒布されたものと認められる。
(2) そうすると、本件商標の商標権者である被告は、平成7年7月10日ころから平成10年1月16日ころまでの間、その指定商品に属するジャンパーに関する広告に本件商標及びこれと社会通念上同一である商標を付して頒布したのであるから、商標法2条3項7号(なお、審決書13頁3行目に「商標法第2条第1項第7号」とあるのは誤記と認める。)に従い、予告登録日の3年以内に本件商標の使用をしたということができる。
(3) これに対し、原告は、被告の上記使用が商品への具体的な使用を伴わない単なる広告への使用であって、本件商標の使用とは認められない旨主張する。しかしながら、商標登録の取消しを免れるため、商品に付する予定がないにもかかわらず広告に商標を付したような場合には、単なる名目的使用として商標の使用とは認められないことがあり得るとしても、広告に商標が付されている場合には、特段の事情がない限り、同一の商標を付した商品の販売等が予定されていると推認するのが相当である。加えて、本件においては、「モノ・マガジン」17巻1号(乙第6号証)において、ジャンパーに関する広告に本件商標及び被告ローマ字商標が付され、かつ、そこには、これら商標と社会通念上同一である乙第5号証の商標が付されたジャンパーの写真が掲載されている。そうすると、被告が上記各広告に本件商標を付した行為は、商品への使用を伴ったものであると認められるから、原告主張のように商標登録の取消しを免れるための単なる名目的使用ではないというべきである。
3 乙第18号証の織りネームについて
原告は、乙第18号証の織りネームが本件商標の不使用取消しを免れるためにのみ作られたものであると主張するが、前記認定のとおり、本件商標の商標権者である被告は、平成7年7月10日ころから平成10年1月16日ころまでの間、その指定商品に属するジャンパーに関する広告に本件商標を付して頒布し、予告登録日の3年以内に本件商標の使用をしたものと認めるに足りるから、乙第18号証の証明力に関する審決の認定(審決書13頁4行目~7行目)について、その当否を判断するまでもなく、原告の主張は理由がない。
4 以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)